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伊藤計劃 著
カバーイラスト 佐伯経多&新間大悟
カバーディレクション&デザイン 岩郷重力 + Y.S
ハヤカワSFシリーズ Jコレクション
ISBN978-4-15-208831-4 \1600(税別)
サラエボが核の炎ですりつぶされた時から、戦争の姿は一変した。一方で人の命がタダ同然な国があり、もう一方で一人の兵士の命があまりにも高価になってしまった国がある。後者が主導した全世界における個人の情報のトレーサビリティの強化は一時的にテロの恐怖を押さえ込むことに成功していたが、後進国における内乱と紛争は絶えることがない。これらの紛争を鎮静化させるためにアメリカが執った手段とは、民間の軍事請負業者への業務の部分的委託と、大軍を用いず、高度に訓練された特殊部隊によって紛争の中心人物を抹殺することで紛争を沈静化させようとする戦略だった。だが、彼ら、通称「暗殺部隊」が何度アクションを起こしてもその都度追及の手をするりと抜けてしまう謎の人物があった。紛争地帯に必ずその姿を見せる一人のアメリカ人、ジョン・ポール。「暗殺部隊」のメンバー、クラヴィスは彼への接近を試みるのだが…。
先日買い取らせていただいた本の中に、そこそこの数の新しめでかつ評価も高く、まだ読んでない本があったんで、そこからいくつかピックアップさせていただこうシリーズ、第一弾はこれ。人によって評価は異なると思うが、小松左京賞において最終候補まで残りながら一等賞は取れなかった、ってあたりに選者(が誰なのかも知らないんですが)の微妙なバランス感覚が伺えてちょっぴりだけど首を縦に振った、ような本。さて、
極めてオタッキーでドライなハードアクションSF、といえるか。作中で飛び散ってる臓物や血の量はかなりハンパない気がするんだが、あまり血なまぐささを感じないあたりが、オタッキーと感じる由縁なのかも知れない。ガジェットとスペック、ちょっと軽はずみなトリビアの羅列が、本来相当重たいものであろう作品世界をかなり軽くしてしまっている印象はある。この辺はわりかし、読む前に聞いてた評判がマイナス方向に働いた、と言えるかも知れない。
ただ、これと並行して語られるもう一方の、そしてこちらこそが本書のメインテーマであろうと思われる部分のテーマ性とそのワンダー(と簡単な言葉で片付けてしまうのもどうかと思うんだが)はかなり魅力的で、決して期待はずれな一冊だったというわけではない、と言うかかなり面白かったのさ。
カエアンの聖衣が人格を規定する衣服であったのと同様に、このお話の中には人間の性向を強制的に一方向に向けてしまう言語、というものが登場する。本書の見た目のヒキがタイトルの前半、「虐殺」のビジュアルであるとするなら、初めはそこに隠れておいて、そこから徐々に「虐殺」と「器官」をつなぐ存在としてそのウエイトを増してくるのが言語。かなり良く練られた「言語SF」なんだね、これ。
血みどろの戦場から湧いて出た世界は、近未来の世界を舞台としながらその実、9.11以後の今現在の現実を映し出す。そこで「言語」は明らかに、現実世界において(そうなった経緯がどういうものであれ)多数意見となりつつあるものに対して「そうじゃねえだろ」と言ってるわけだ。本書のキイ・パースンの名前がジョン・ポールであるというのはつまり、そういうことなのかな、と。ラストはかなり気に入りました。
★★★★
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