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2005-06-27 [長年日記]

[Day] 暑い… (19:11)

昨日半日近く、冷房の効いたもんちぃ師匠宅にいたもんだから、その反動で今日の暑さは一段と堪える(我が家のエアコンは3年前から壊れているのだ)。手が汗ばんでくるんで古本の梱包にはさらなる慎重さが要求されるです。今日はしょっちゅう手を洗ってたような気がするな。

本業の方のちょこまかした修正と古本屋の方のちょこまかした作業をやってるウチにもう晩飯タイムだ。効率悪いのう。

[News] どーでもいいけど (23:29)

今日の朝日新聞の夕刊(大阪版)のトップ記事の見出しが、「暴走族、高齢化」。なんか妙に笑えた。近いうちに高齢暴走族ケアビジネス、なんてものが登場するかも知れんなー、なんてね。

[Books] 戦略・戦術分析[詳解]独ソ戦全史 「史上最大の地上戦」の実像 (24:55)

4059011738 デビッド・M・グランツ&ジョナサン・M・ハウス 共著/守屋純 訳
カバー写真 ノーボスチ通信社 提供
学研M文庫
ISBN4-05-901173-8 \1300(税別)

人の命は史上最安値

1941年の"バルバロッサ"作戦から1945年のベルリン攻防戦に至るドイツ、ソビエト間の戦史を、おもにソ連側の公文書を丹念に検討することで再構築した、ソ連から見た独ソ戦の戦略、戦術に関する総括。ソ連崩壊によって、それまで閲覧不能だった幾つかの記録に比較的容易にアクセスできるようになったこと、そしてそれらの記述については、既に西側で刊行されている膨大な戦史や研究書とのクロスチェックによって、これまた比較的容易にその信憑性が確認できるようになってきたことから著わされた、ソ連側の指導者の立場から見る独ソ戦の全貌。

一般的に独ソ戦というのは、ヒトラーの天才的なカンと、脂の乗りきっていたドイツ軍の熟練度によって一方的にソ連が追いまくられたのだが、そのヒトラーのカンの変な方向への逸脱が戦闘の長期化を招き、それがナポレオンをすらはねのけた"冬将軍"の到来を呼び、一気に進撃の止まったドイツ軍に数で優るソ連軍が反撃を開始して…、みたいな展開で語られる物だけど、で、それは確かにそうなんだけどそれだけじゃあないよ、と。

ドイツがまだヴェルサイユ体制下でやりたいことの多くに手をつけかねている1920年代に、ソ連では共産革命直後の、戦力で劣るボルシェビキ側の軍の運用において、"機動戦"の重要性が既に認識されており、それを実現するには高度に機械化された戦闘部隊が必要になる、という認識がなされていた、というあたりでまずは驚かされる。実際に1930年代に、ソ連は快速のBT戦車(アメリカのクリスティー型)と小型のT-26(原型は英国のヴィッカーズ6トン軽戦車)を数千両のオーダーで生産している。戦術の検討も極めて進んでいて、著者たちが言うように、もしドイツが1930年代にソ連に侵入していたら、もしかしたらドイツは初戦で叩きつぶされていたかも知れない(チェコ併合前だったらその確率はさらに跳ね上がるだろうね)。ところが、順調に伸びていこうとしていたソ連軍の組織に対して、職業軍人という人種に猜疑心を募らせるスターリンが要らぬ粛清の嵐を吹かせてしまったものだから、強力な陸軍国として発展するはずだったソ連軍はたちまち腑抜けた集団になってしまう。そしてその腑抜けぶりが抜けきれない時期にドイツが攻め込んできたもんだからさあ大変。そもそもまだドイツとは戦争したくなかったソ連側は、全く有効な抵抗ができないまま、莫大な損害を被ることになってしまう。

独ソ戦の経緯ってのは、つまるところ二人の独裁者のゆとりの差、なのだね。当初、それなりに(心の底ではナチ嫌いなんだけど)結果を出してきた国防軍の将軍たちに自由にやらせるゆとりがあったヒトラーと、なにせ国が出来てまだ間がないソ連で、何より自分の権力基盤を安定させたい、という強迫観念で軍人たちに自由裁量権を持たすことを嫌ったスターリンの余裕の無さが、そのまま独ソの戦果につながっているという感じ。これが長く苦しい戦いの経緯で、有能な将軍に自由にやらせれば、自ずと結果は手にはいるのだ(失敗もあるけど)、と思えるようになった、つまりそれだけ余裕が出来たスターリンと、とにかく何を言っても失敗ばかりしている将軍たち(すべてが将軍たちの責任というわけでもないのだけれど)に信用がおけなくなり、どんな小さいところまでも自分でコントロールせずにはいられなくなってしまった、つまりは余裕のなくなったヒトラーとの差がそのまま戦局の推移に現われていると言うことなのだろう。その辺はまあ、西側の戦記物など既に読んでいる状況を裏付けするものではあるけれど、それらの戦史がともすれば、"バルバロッサ"作戦以降のソ連軍の"蒸気ローラー"ぶりを強調するのに対して、本書では、実はソ連軍もまた、ロジスティクスの限界に近いところで苦労していた、というのが判ってくるあたりも興味深い。

あたりまえだよね。100万を超える兵士が死傷、または捕虜になるような損害というのはちょっと常軌を逸しているもの。何かの本で、軍の指揮官というのは、自分の軍の30%が喪われたらその戦いは負け戦である事を覚悟する、みたいな記述があったことを思い出したけど、とにかくこの独ソ戦というのは、そういう一般的な認識が全く通用しない。ソ連軍の歩兵部隊では、第一波で突撃する舞台の損耗率は戦争中を通じて50%、というのを指揮官も認識していたという。膨大な数の人命をつぎ込んで、その命の無駄遣いの上にソ連の生存はあったということ。最終的にソ連の大戦での死傷、行方不明者の数は3000万人にのぼるという。それだけの損害を出してなお、国家として生存し得た国の恐ろしさをひしひしと感じるし、そんな国でもひとたび民衆が蜂起したら、意外なほどあっけなく体制が崩壊してしまうというのも興味深いところではある。すべては大戦における経験から、国を守る、ということに過剰なまでに注力してしまったがゆえの結果、というあたりの皮肉も含めて。

ひたすら淡々と、時系列に沿って独ソ戦の戦略、戦術を検証していく本で、物語的面白さという点ではとても高い点数つけられたものじゃあないのだけれど、読んでいくうちに、ここで淡々と語られる事実の浦で、一体いかほどの悲嘆があったのか、に思いを寄せるととたんにシュンとならざるを得ないような本。パウル・カレル「バルバロッサ作戦」、「焦土作戦」、ハリソン・ソールズベリ「攻防900日」、あと、「第二次世界大戦ブックス」の独ソ戦関連書物などもあわせて読んでみることをお奨めします。

それにしても人の命が軽いわ。泣けてくるほど軽い。なにか軋轢があると、大陸系の人種というのはここまで苛烈なことをやってしまうものなんであろうか。ああ、島国の人間でも似たようなことはやっちゃうよなあ。教育や何やかやでどうにか出来そうな気もする反面、そういう、きれい事では根本的には解決できない部分ってのもありそうな気はして、一体どうしたら良いんだろうと言う気にもなってしまいますな。

(★★★)

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http://d.hatena.ne.jp/rover/20050627#p1<br>古本屋番頭日記<br>[Review] よんだほん<br>デビッド・M・グランツ&amp;ジョナサン・M・ハウス 共著「戦略・戦術分析[詳解]独ソ戦全史 『史上最大の地上戦』の実像」 http://www.bumbunker.com/?date=20050627#p03 こういうの読むと、太平洋戦争がヨーロッパでは「田舎の戦争」扱いされるのも判るような気がする。..


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