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神林長平 著
カバーイラスト 遠藤浩輝
カバーデザイン 岩郷重力+WONDER WORKZ。
ハヤカワ文庫JA
ISBN978-4-15-030939-8 \940(税別)
人類の進化に行き止まりが見え始めた時代、原因不明の臓器崩壊現象に対抗する人工臓器の開発、製造を一手に握り超巨大企業に発展したライトジーン社は、その巨大さ故に今度は危険視され、解体されてしまう。いくつかの人工臓器メーカーがしのぎを削る現在も続く技術開発競争の影では、臓器をめぐる犯罪や不可解な現象もまた多発していた。ここで起きる、厄介な割に大した見返りの期待できない事件を専門に扱う市警第4課に協力する男、菊月(キクヅキ コウ)虹。彼こそはかつてのライトジーン社の解体のきっかけのひとつとなった存在、初めて成功した完全な人工生命体だった。しかも彼には通常の人類がかつて持たなかった強力なサイファ能力も有していたのだ…。
もとは朝日ソノラマから出ていたもの。確か最初はノベルズ版か何かで出てて、「んじゃ文庫になったら」と思ってそのままうっかり買い忘れて現在に至ってた、な作品。うかつにも程がある。
人間のすべてのパーツを人為的に造り出された人造人間であるコウは、いってみればライトジーン社の暗喩で、それが解体され、いくつかの会社に技術が引き継がれることで、人体のあちこちのパーツに分かれた「造られたもの」と、世界ではばらけた物をかろうじて身体として保持しているコウとの関係性を下敷きに、認識すること、コミュケーションを取ること、認識とコミュニケーションが自己のアイデンティティにどう返ってくるのかを考える、という、ある意味神林SFの神髄を思う存分楽しめる一冊になっている。がつんと600ページ、ボリュームもたっぷりだし。
全体のトーンは、んまあハード・ボイルド系ではある意味定番とも言える、おおむねダメだけどやる時はやるぜ系な、ショボクレ中年男の巻き込まれ冒険譚。ただ、そちらのフォーマットに乗っかりながら連作形式で語られていくのは、作者が意図した物なのか無意識のうちにそうなったのかはわからないのだけれども、いつもの神林的なテーマ性に被さるように、「アート」なテーマ性、のような物が付加されているように感じられる。音楽や詩、格闘技(もまたアートだろう)がエピソードに通奏低音としてかなり重要な意味を持たされているように感じられるのだな。
認識し、コミュニケーションし、そしてそれをどう伝えるか、伝えられた物をどう受け取るのか、ってところに思いをいたす部分ってのは、実は神林SFでは意外に珍しいのじゃないか、って気がしてそこがちょっと新鮮だった。全体としてはいつものシビアさをちゃんとキープしているんだけれど、時として神林には珍しい、割とピュアなメッセージが散見されて、そこが意外にあとを引く感じで。てなワケで本編にとってはあまり重要じゃないかも知れないけれど、かなり印象に残ったのがこんなセリフ。
それでも仕事は必要だから、人脈を頼って音楽プロデューサーもやってみるが、個性を発揮することができない。自分にはその才能がないのだと彼はあきらめる。才能がないのではない、ないのは表現すべき個性そのものだというのに、彼は、それに気づかない。
ちょっと深いっすよね。
★★★★
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