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月に一度の岸和田・堺ツアー。天気もまあまあ良くてちょっとお気楽な小旅行気分。タイミングが上手く取れなくて、昼飯喰う時間を作れないまま夕方まで過ごして立ち呑みの暖簾くぐっちゃったんで、結構酒が回っちまったぜ。
米沢嘉博 著
装画 吾妻ひでお
カバーデザイン 井上デザイン
ちくま文庫
ISBN978-4-480-42419-8 \900(税別)
手塚治虫によってその原型が作られた戦後マンガ。それは生まれた時からすでにSFだった。産声を上げたマンガとSFとの親和性の強さの陰には何があったのか。そしてその後もつかず離れず関係性を保ち続けてマンガの歴史と共に存在したSFがマンガに与えた影響とはどんなものだったのか。米沢嘉博の労作の文庫化。
リアル世界ではともかく、webにおいては自分なんかはもうとっくにロートルの部類に入ると思うんだけれど、恐ろしいことに8章 + 終章という本書の章立ての中で、こちらが「ああ、あったあった」と思えるのが4章の終盤あたりってあたりで、日本のマンガの意外な懐の深さを再確認してしまう。
「面白ければ勝ち」が基本の基本であるマンガの世界において、自由な発想と破天荒な展開を導入する時に、SFの持つ自由な部分が敷居の低さとなって現れたこと、それが"戦後民主主義"という名の縛りをかわす上でも有効に作用したこと、それを踏まえた上で常に"SF"であろうとする手塚治虫のスタンスと、彼の後続によるSFの"いいとこ取り"的展開がやがて、SF側の"浸透と拡散"の流れと、マンガ側で勃興する劇画のムーヴメントによってどういう変遷を強いられていくのか、ってあたりを丹念に追っていく米沢さんの緻密な仕事っぷりが素晴らしく、特に手塚治虫が日本のマンガシーンにおいて自らが持っているウエイトが大きい時期の解説において、その読み応えは極めて大きい。
本書の一番の読みどころは、マンガでSFを表現したいと考えた手塚治虫と、SFをマンガの武器として使いたいと考えたそのほかのマンガ家との微妙な相克を丹念に追っていくところにあると思うわけで、そういう意味でも日本のマンガ・シーンに手塚治虫の名前を抜いて語ることが不可能な時期、本書で言えば第5章あたりまでの濃密な読み応え(テキトーに読んでると何か大事なことを取りこぼしてしまう危険性もあるんだけど)は格別のモノがある。逆に手塚治虫のネームバリューというか神通力が通用しなくなってきてきたかな、と思える時期の解説に今ひとつキレが足りないと感じられるのも、やむを得ないところはあるのだろうな、と思わされた。
自分がSFに持っているイメージの根っこにあるのは、なんというかこう、ソフィスティケイトされたエッジ、みたいなモノなので、突破力というか破壊力を洗練の上に置こうとするマンガとしてのパワフルさ、ってところで星野之宣をあえて持ち上げない米沢氏のスタンスは痛いくらい良くわかりつつ、それでもオレは諸星よりも星野だぜ、ってあたりの気持ちの行き先ってのは、土台が出来上がったあとの手塚が直面したジレンマに対しての、片一方からのエールとして機能するのかな、なんてね。
もう一点、マンガとSFの関係性について「そうだったよなあ」と納得出来るセンテンス。ぎりぎり、この感覚はオレにもわかる。
外国とはアメリカだぐらいの認識しかないガキ達の居住地の範囲内で考える時、世界はなんと非日常的で夢と冒険にあふれていたことだろう。地方の子供にとっては「東京」とはまさに冒険と活劇の大都会だった ―子供たちにとっては、別にSF的異世界を創ってくれなくとも、大人の社会で充分異世界はまにあっていたのである。
多分オレが最初にマンガに魅入られた要素ってのも、上で引いたシチュエーションに近いものであったと思う。それがいつの間にか薄れていき、単純にマンガに夢中になれなくなっていく過程のシミュレーションを、本書でやることができてしまうような気もしてそこは少々複雑かも知れぬ。良い本だと思うんだが、この本が良いのはある意味、この先日本のSFマンガにあまり大きなブレイクスルーはないかもしれないからだよ、ってのを四半世紀以上前に予言していたからであるかも知れないわけで。
この続きになる80年代からのSFマンガに関する解説って、ものすごく退屈で先の見えないモノになってしまいそうな気がして、あんまり読みたくない類の本になりそうだな、って気がかなりするのだよね。
★★★★
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