ばむばんか惰隠洞

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2008-11-21 [長年日記]

[Books] 時間封鎖 (24:58)

時間封鎖 上(Wilson,RobertCharles/著 茂木健/翻訳 ウィルスンロバート・チャールズ/著)時間封鎖 下(Wilson,RobertCharles/著 茂木健/翻訳 ウィルスンロバート・チャールズ/著) ロバート・チャールズ・ウィルスン 著/茂木健 訳
カバーデザイン 岩郷重力 + WONDER WORKZ。
Cover Photo Complex L.O.S.164
ハヤカワ文庫SF
ISBN978-4-488-70603-6
ISBN978-4-488-70604-3

いつもと変わらない夜だった。大人たちはパーティーに興じ、子供たちはそんな大人たちの目を盗んで屋敷を抜け出して芝生に繰り出し、他愛のない話で時間をつぶす…。だが世界は一転する。満天の星が一瞬にしてかき消えてしまったのだ。いや、正確には星が消えたわけではなかった。突如地球を覆った暗黒の界面が、地球と宇宙の間に条件付きのフィルターとなってしまったのだ。さらにその界面で覆われた地球と宇宙の間には、驚くべき格差が生じていた。それは1億倍の時間差。今や地球での一年は、界面を隔てた宇宙では一億年になってしまったのだ。はるか先と思われた太陽の熱死は、この状態の地球にとってはわずか五十年先に待っている…。

比較的ハードSFを苦手としている自分なのだが、その理由の一番手に来るのは科学的な考証("ハード"の部分ですね)が先に立つあまり、物語としての深みがしばしば後回しにされてしまう、というところだと思う。SFとは意識に訴えるものであって、情緒を刺激するのは後回しにしてもいい文学ジャンルであるというのはある程度理解しているのだが、それでもたまには情緒面で読み手の感覚を刺激するようなハードSF、があっても良いんじゃないかと思ってたってところはあったんだけれど、実は本書、その情緒の方にかなり踏み込んだSF作品としてかなりちゃんと成立はしていると思う。

地球で何か外に向けたアクションを起こした時に、宇宙史的なタイムスケールが一億分の一に圧縮されて結果が返ってくる、というのはSF的に非常に魅力的な設定なわけで、やろうと思えばそこにいくらでも面白いネタをつぎ込んで来れそうなものだが、著者のウィルスンさんはあえてそっちに力を入れず、そこそこ未来にカタストロフが約束されている地球で生活する人々の、心の動きのような物を丹念に解きほぐす方に力を入れている。「地球最後の日」を期待して読み始めたら正体は「渚にて」だった、的な、「それはそれで良いんだけどね」と思いつつもどこかでなにかこう、肩すかしを食らったような気もまた同時にするような本だと言える。

もともとの原書のニュアンスがそういうものだったのか、イーガンをグレッグ・イーガンというオーストラリアのSF作家(強調は乱土)という認識しかできていない訳者による翻訳が、SFのニュアンスをことさらに削ぐような結果になってしまったのかについては何とも言えないのだけれど、ハードSFかどうか、というジャンル内ジャンルの認識に行く前の、そもそもSFとしてどうなんだって部分で、少なくとも日本語版を読んでいる時点での「SFを読んでいる」感が、なかなか伝わって来ないもどかしさはあるのだな。物語として相当良くできてはいるとは思うし、情緒的にあちこちでかなり思うところはある読み物なんだが、その反面今度は意識の方に、ちくりとも刺激が来ないSFってのもどうなんだろう、と。

だって一億倍の時間差だぜ。地球で恐竜のタネを作って宇宙に送り込んだら、一ヶ月ぐらいでジュラ紀の恐竜さんのサンプルがゲット出来る(計算してませんので突っ込まないでください)ような世界である。そこの所にSF的なワクワク感をいくらでも持ち込めたはずであるにもかかわらず、著者はあえてそこに力を使わず、あくまで物語の通奏低音的な位置づけから前に持ってくることはやってくれないわけだ。そこが原書の持ち味だったのか、訳者のセンスがそこに加わったものであったのかは想像するしかないんだけど、わたくし個人はそこに少々不満を持つ。物語が足りないといっては不平を言い、物語が過剰だと言っても不平を言う、ではワガママにも程があると思うがそれが正直な感想なんだからしょうがない。

著者ウィルスンの作品としては、創元SFで「時に架ける橋」ってのがあって、こちらの方はわたくし読んでいて、感想を読み返してみてもやはり物語としての出来の良さをそれなりに評価していたようではあるんだけれど、時間SFってのが情緒にシフトしていてもその読み味にあまりマイナス評価を与えないジャンルであるのに対して、仮にも「本格」とか冠がついたSFで、なかなか意識を拡げてくれない作品ってのは少々辛いな、という感想を持ってしまう。

物語としては平均的に良くできた作品であって、読み応えはそれなりにしっかりした物はあるのだが、でたらめに面白いSFを読んだ、って気には残念ながらさせてもらえなかったかも知れない。山岸真さんとか酒井昭伸さんが訳されたらどういうお話になったのか、ってあたりにはちょっと興味を惹く部分が残ってはおりますが。

★★★☆


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