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2010-10-13 [長年日記]

[Books] ここがウィネトカなら、きみはジュディ 時間SF傑作選

ここがウィネトカなら、きみはジュディ : 時間SF傑作選 : SFマガジン創刊50周年記念アンソロジー(大森望/著) 大森望 編
Jacket Art 瀬戸羽方
Jacket Design 岩郷重力 + WONDER WORKZ。
ハヤカワ文庫SF
ISBN978-4-15-011776-4 \940(税別)

「SFマガジン創刊50周年記念アンソロジー」第2弾。時間SFをメインテーマに、ロマンス、奇想、ループをテーマにした3部構成、13編を収録。

時間SFということだとつい最近、中村融さんが編まれた「時の娘」なんてキュートなアンソロジーがあるけれど、本書を編むにあたってはそちらのラインナップも参考に、前述したような3部構成+大トリ、という構成をとった、とのこと。さてその構成は吉と出るか凶と出るか。んでは簡単に感想を。

商人と錬金術師の門(テッド・チャン/大森望 訳)

中世のイスラーム世界を舞台にした、SFと言うよりファンタジー側に入れても良いお話。未来を見、過去と現在を見つめ直す人々の美しいお話。オチの付け方をどう評価するかで、読者の汚れ具合が判定できるかも知れない。私はちょっと汚れたオトナです(もう一押し、ぐっと来るオチが欲しかったんだ)。

限りなき夏(クリストファー・プリースト/古沢嘉通 訳)

時を「凍結」させる謎の勢力が人間たちの社会に紛れ込んだことで起きる「待つ」ロマンス。いろんな事を投げたままお話は進むのだが、普通に流れる時間と凍結された時間が同じ世界に混在している事が産む不思議さと切なさを、時代のディティールを丁寧に描き込むことで盛り上げてくれている。

彼らの生涯の最愛の時(イアン・ワトスン&ロベルト・クアリア/大森望 訳)

生涯で愛する女性は一人だけ、と心に決めた少々ニート気味の少年ジョナサンの前に現れた、上品な家庭教師の老女エレナ。少しずつエレナと打ち解けていくうちに、彼女こそ自分にとって運命の女性なのだと思い定めるようになったジョナサンだったが…。

気合で時間を超える、ってネタのSFはそこそこあるけれど、気合を発揮するための舞台に、マクドを選ぶという発想がまずおかしい(褒めてます)。その上お話は男女それぞれが老け専に走ってダブル腹上死でハッピーエンドって、おかしいだろ(ネタバレごめん、でも激しく褒めてます)。激しくブッ飛んだお話なのに、なぜかこれも純愛の一つの形だと思えてきてしまうのが怖いわ。さすがワトスン(w。

去りにし日々の光(ボブ・ショウ/浅倉久志 訳)

SF史上に残る重要アイテムの一つ、スロー・ガラスものの記念すべき第一作。名作なのは間違いなし。でもこれは連作の形で読みたいよね。古本屋的においしいアイテムが一つ消えるのは淋しいが、これはやはり復刊して欲しいよな。

時の鳥(ジョージ・アレック・エフィンジャー/浅倉久志 訳)

お金を払えば過去の歴史的スポットに一日だけ滞在できる技術が確立された未来。卒業旅行として過去への旅行を両親からプレゼントされたハートスタインは、全盛期のアレクサンドリア図書館へのタイムトリップを選択したのだが…。

ここから「奇想編」。タイムトラベルを仕切る企業のあちこちに飾られている額入りの引用句が、この先に起こることを何となく示唆している。最後はダンテの「神曲」からの有名なフレーズなんだけど、これはさすがに邦訳を載せるわけにはいかなかったよね。上手い感じで仄めかしはできていたと思うのでまあ一安心。ちょっと狂騒的な掌品。

世界の終りを見に行ったとき(ロバート・シルヴァーバーグ/大森望 訳)

時間テーマ以上に、認識するもの、認識されるもの、そして認識させるものの関係性に皮肉な視線を投げかける。おそらく世の中で最も重要な事象であると思われるイベントが、人間側の割と卑近な都合でどんどんどうでも良い話になってしまっていく過程が面白い。

昨日は月曜日だった(シオドア・スタージョン/大森望 訳)

これは20世紀SF 1 1940年代 星ねずみに収録されていたもの。シルヴァーバーグ、スタージョンと練達の士の技が冴える佳品が続く。

旅人の憩い(デイヴィッド・I・マッスン/伊藤典夫 訳)

時間の流れが南北の位置関係でリニアに変化する世界の中で生きる人々を描く、奇想の冴えという点では本書中で一番。時間の流れの違いっぷりを表現する方法がびっくりもの。ストーリー的にも古典的SFのスタイルでワタシ好み。

いまひとたびの(H・ビーム・パイパー/大森望 訳)

こちらもクラシックな海外SFのスタイル。まあ実際に古典SFになるのだけれど。ある意味「古き良き」って言葉がぴったり来るような一作。

12:01 PM(リチャード・A・ルポフ/大森望 訳)

ここから時間ループものの3作品。まずは1時間のスパンでループする男の物語。オチがかなり切ないね。

しばし天の祝福より遠ざかり……(ソムトウ・スチャリトクル/伊藤典夫 訳)

タイ王室王位継承権17位、でしたっけか(w。日常生活に突然割り込んだ何者かのおかげで時間のループが発生してしまって、と言う話。狂躁って部分の面白さはあるが、全体としてはややピンぼけかも。まあそういうのがこの人の持ち味なのかも知れないんだけど。

夕方、はやく(イアン・ワトスン/大森望 訳)

1日の中で800年の人類史がループすることになってしまった世界のお話。読んでいくと800年というタイムスケールが徐々にシフトしていく、というところの怖さも併せ持ってる。そちらの方の不気味さみたいなものの方が実は大きいはずなんだけど、ノリとしては割と投げてる。そのあたりも古典的なSF作品との違いってことになるのかな。自分はワトスン大好きなので、こう言うのも大歓迎なんですが。

ここがウィネトカなら、きみはジュディ(F・M・バズビイ/室住信子 訳)

ノリとしてはロマンス系。個人史をいったんばらばらにされ、ランダムなパッチワーク的人生を送ることになってしまった男の物語。ジュディでもダーリーンでもなく、真に重要な名前は、ってあたりがタイトルに込められた仕掛けというかミスリードというか。技巧派SF、という感じだな。

ロマンティックSF、ってパートには先達もあるのでそこの所のヒキはさすがにちょっと控えめだったか。逆にそれ以外のジャンルでの時間SFの名作を期待して読んだのだけれど、そちら方面でのエッジの切れっぷり、ってところでは少々物足りなさが残ったかも知れない。良質なアンソロジーではあるのだが、編者のポリシー的なところが若干薄い感じがしてしまって。大森さんでアンソロジー組むのなら、ハチャメチャSF方面でやっていただいた方が良かったんじゃないのかな、なんて気がしないでもない、かしら。

★★★☆


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