ばむばんか惰隠洞

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2004-08-12 [長年日記]

[Day] しゅつどうっ!

わあい寝坊しちまった。とりあえず三宮の古書即売会を覗きにいくだ。元気があったら「スティームボーイ」ぐらい鑑賞してきたいとこだが、さて。

今日も暑そうだなあ…

[Day] あ、あれっ?

先週に引き続いて、今日からさんちかで古書即売会だと思ってたのに、いってみたら骨董品の即売会じゃん。しょぼーん。何となく映画を見る気も失せて、へろへろと戻ってきてしまいましたとさ。元町通りでは古書の即売やってたので2冊ほど購入したけど、総じて収穫なしであった。とほほ。

[Books] 八月の砲声

本書カバー バーバラ・W・タックマン 著/山室まりや 訳
カバーデザイン 間村俊一
ちくま学芸文庫
ISBN4-480-08867-9 \1500(税別)
ISBN4-480-08868-7 \1500(税別)

「バルカンのどこかで、途方もなくバカげた事が起これば、さし迫った戦争に火がつくだろう…」ビスマルクの予言は的中した。1914年6月、サライェヴォに響いた銃声は、危うい均衡を保っていたヨーロッパ列強を一気に戦争の渦の中に巻き込んでいく。だがこの戦争は、決して唐突に発生したものではなかった。ヨーロッパ最強の国家となる事を目論むドイツ皇帝ヴィルヘルムII世の挑発的な言動と、それに対抗するフランス、ロシアの間ではすでに、次の戦争が起こった時の動員計画、実際の戦略などについては緻密かつ膨大な計画ができあがっていたのだ…。

1963年のピュリツァー賞受賞作品。1910年、英国王エドワードVII世の死去を機に欧州大陸の覇権をわがものにしようとヴィルヘルムII世が精力的な外交を開始するところからお話は始まり、ついに大戦が勃発、初戦のドイツ軍の急進撃、タンネンベルクでのロシアの大敗、そしてマルヌの会戦におけるドイツ軍の進撃停止、までが描かれる。ここまで急展開につぐ急展開だった戦局はマルヌ会戦後停滞し、長く厳しい塹壕線へと続いていく。この本の後に続くのが、「西部戦線異状なし」や「ジョニーは戦場に行った」のエピソードというわけ。

緻密に練られたと思われる戦略が、実は旧来の固定観念に囚われすぎたものでしかなかったり、せっかくの斬新な戦略が、その有用性を性格に見て取る事の出来ない軍高官によって微妙にねじ曲げられ、当初持つはずだった破壊力を完全には持ち得ない戦略になってしまった、などというエピソードの数々は、第一次大戦に限らず、この前の戦争でも似たようなそれをさんざん目にするわけだけれど、机上でいかに完璧な理論であっても、それが完璧たり得るには現実世界と机の上が寸分違わぬものでなければならないという条件が付くわけで、残念ながら現実世界は机の上のように簡単に見渡しの効くようなものじゃない。さまざまな不確定要素がそこにはある、という事をいかに戦略に織り込めるかが、戦略家の腕の見せ所な訳だけど、ドイツの戦略家たちは机の上をあまりに重視しすぎ、英仏の戦略家たちは現実の、それも都合の良い部分だけを見て戦略を立てていた、というのが明らかになってくるあたりの描写が興味深い。敵も味方も穴のある大計画の元で大戦闘になだれ込んでしまった戦争であったのだね。

序盤のミスをお互いに有効に修正する事が出来なかった事が、短期間で終ると思われた戦争を、4年に及ぶ大戦争へと変貌させ、人の命を著しく軽いものに変えてしまったわけで、その後の日本の悲惨な状況などを考えても、「参謀」というリーダーたちの資質と責任ってのは、近代戦に於いてはとてつもなく重たいものだよなあと思ってしまう事ではある。

それとは別に、本書ではとても印象的な箇所が上下巻でそれぞれ一カ所ずつあって、そこはいろいろと考えさせられた。

上巻では「中立国」である事の難しさ、辛さ。ドイツはシュリーフェン・プランに沿って中立国のベルギーに侵入し、フランスの中枢に大迂回戦を仕掛ける計画を持っていた訳だけど、中立国であるベルギーはあくまで、自国に敵が侵入するまで有効な手を打つ事は出来ない、敵の侵入があったあとも、それまで軍事的な条約を結ぶ事が出来ない中立国にとっては、近隣の大国の都合が先行する、実際に戦争に巻き込まれたあとは、自国の思惑はそっちのけで近隣の大国の戦略に否応なく組み込まれ、往々にして国土は蹂躙されまくる、という三重苦を味あわざるをえないというわけで。しかも念の入った事にこの国は、それから30年と経たないうちに、まったく同じ災厄を食らっているわけで、なんと言ったらいいか、「中立」を謳うという事の裏にはここまでの覚悟が必要である、という事を今の我々はわかっているのかなあ、などとふと考えてしまったわけで。ぱっと見にはなにやら美しげな「中立」という響きではあるんだけど、その「中立」を全うするというのは、これはこれで大変な覚悟と、それなりの準備が必要なんだよな、ということなのだな。

下巻の見所は「国民性」。上意下達、というか、御上からの訓告を極めて従順に受け入れてしまう性質を持った民族と、それがラテンのノリなのか、上が言う事はそれとして、自分の故郷が蹂躙されたら自発的に銃を持ち、個人レベルでも戦う事を辞さない民族が対峙した時に、予想できなかった軋轢が生まれてしまうという事。いったん自国を占領されてしまったら、おそらくゲルマン民族的には話はそこで終わりで、あとは新しい為政者に案外従順に従う(この辺、日本人と似てるのかも知れない)ものが、ベルギーやフランスの住民たちは、国が破れ、占領軍が駐屯してきても反抗する気を失わない、この精神が理解できないゲルマン民族が、彼らを過酷に処断してしまった、というのはドイツにとってその後半世紀以上にわたる痛恨事の端緒だったのかなあ、と。別にナチスがそうだった訳じゃなく、ゲルマン民族の特性として、統制を外れて独自に行動するものが理解できず、いきおい過酷な処断に走ってしまう、という傾向があったし、それは次の大戦でも同様だったのだろうね。

国と国が戦う、といった時に発生する膨大な戦闘以外の手間の部分、近くにあるからといって国民感情も近いとは限らない欧州の複雑な人間事情、みたいなものを改めて想起させてくれる労作。読み応えあり。なれど文庫本の上下巻、あわせて3000円というのは勘弁してくれー、いや、3000円取るならもうちょっと、活字を密集させてくれー、とも思ったけど。ちくま文庫は高いのよね(つoT)。

(★★★☆)


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