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船戸与一 著
カバー 安彦勝博
文春文庫
ISBN4-16-768302-4 \895(税別)
楢本はどうしてもその男に会わなければならなかった。8年前、PKOでカンボジアに派遣され、そのまま現地除隊した元陸自三尉。妻子を日本に残し、その後ぷっつりと連絡を絶ってしまったその男、越路修介。かつての同僚はなぜ突然家族を捨て、カンボジアに留まることを選んだのか。その理由はわからない、だが今、楢本にはなんとしても越路との間に残る、一つの問題を解決しなければならなかったのだ。だが現地で彼を追ううちに、楢本の元には信じられない情報が入ってくる。カンボジアで横行する大規模な人身売買の組織に、越路が深く関係しているらしいと言うのだ。いっぷう変った男ではあったが、しかし越路はそんな行為に手を出すような人間ではなかったはずだ。いったい何が起こっているのか…。
夏はフナドだ。むせかえるような暑さ、やけに粘度の高い血だまり、虐げられた民族の呻き、彼らに限りない共感を覚えて巨大な何かに立ち向かう男たち。冷房を止め、汗だくでフナド冒険小説を読むのは夏の読書の楽しみの一つだ… なぁんて言っておきながらここんとこ、夏のさなかにフナドを読んでいなかったなあ。と言うことで個人的には久々の夏のフナド。今回の舞台はカンボジア。いつものように船戸与一は、舞台となる国の暗部に深く切り込み、その問題点をえぐり出し、それに立ち向かう男たちの、あらかじめ負け戦が約束されている激闘を丹念に描写していく。すべてが終わったとき、男たちの夢はいったん破れてはいるのだが、それですべてが終わった訳じゃない、と読んでいる側に余韻を残して…、という船戸冒険小説の黄金パターン。これが心地よいのだな。
本書もそんな、フナドらしさにむせかえる大作。失踪した元自衛官越路、彼を追う楢本とその連れとなるクメール人のヌオン、カンボジアの子供たちにちゃんとした教育環境を与えようと独自に活動する、元キリスト者の丹波、そして元"クメール・ルージュ"の戦士、チア。四人の主要な登場人物は、時に一人で、時に共同で権力や利権で肥え太った巨大な相手に歯向かっていく。ここまでどちらかと言えば"狂信的"とか"暴虐の徒"の集まりと言う方向に決めつけられていた"クメール・ルージュ"の真相がどういうものであったのか、本当に非難すべき相手を"クメール・ルージュ"のみに限定して済ませてしまって良いのか、彼らに全ての罪をおっ被せることで、予想もしないところに利権の元を見いだしてぬくぬくと肥え太っている連中はいないのか、を追求していくフナドの筆はやっぱり熱いのであった。
いわゆるポル・ポト派がやったこと、カンボジア内戦であったことが現実にはどういうものであったのか、と言う部分はこれからさらに検証されていかなければいけない話ではあろうと思うが、現状で得られる情報、作者が独自に取材した情報を踏まえた上で書き上げられたこの作品には、いつもの船戸与一作品が持つ、弱者への限りなき共感と、そこに本音で立ち会っていこうとする登場人物たちの心根が反映されていて実に嬉しくなってくる。汗かいて読んだだけの値打ちはあるよな、と。
お話の焦点、みたいなものがなかなか定まらない嫌いがあり、エンタティンメント小説の技法、みたいなところでは今一歩、と言いたくなってしまう本なのだけれど、なんというか、ここのところ読ませてもらえてなかった船戸冒険小説の神髄を久しぶりに味わったような気になってしまう一作。暑苦しい冒険小説が好きなあなたなら乞御一読。
(★★★☆)
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「山猫の夏」良いですよね。迷わず人に薦められる数少ない傑作です。暑苦しい冒険小説を読もう!暑苦しい部屋で。
ええもう、読んでるだけで汗出てきますよね。珍しくもわたくしが文庫に落ちるまで待てなかった本です(w。