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2011-12-06 [長年日記]

[Books] プランク・ダイヴ

プランク・ダイヴ(Egan,Greg/著 山岸真/翻訳 イーガングレッグ/著) グレッグ・イーガン 著/山岸真 編・訳
カバーイラスト 鷲尾直広
カバーデザイン 岩郷重力 + WONDER WORKZ。
ハヤカワ文庫SF
ISBN978-4-15-011826-6 \900(税別)

数学キター!!

山岸真氏による日本版オリジナル短編集。比較的最近発表されたものを多めに7編を収録。

やってきましたグレッグ・イーガン。オレが最も苦手とするSF作家の一人だ。とにかく何かとんがったところで思索のエッジを効かせまくっているのは判るんだけど、その切れ味のあまりのすごさで、切られた後からたちまちそこがくっついちゃって(『るろうに剣心』でありましたね、素晴らしく良い刃物だとすぱっと切った大根が、すぐに合わせると組織が元通りになっちゃう、ってヤツ)、はて今何がありましたか? って気がして読み返しては見るんだが、やっぱり良く判らない、という…。

そんなこんなで読み切るのに大変な時間が必要な上に、読後にちゃんと判った気が全然しない、と言う困った作家さんであるんだけれど、それでも文庫で新刊が出たら買って読むって言うのは、訳分らんなりに何か気になる、ってところもあるのだろうな。そんな厄介なイーガンさんの短編集、今回もいろいろヘヴィ級です。ってところで収録されている作品の、判ったような判らん様な感想を、つらつらと。

クリスタルの夜

人間のそれをはるかに超える演算スピードを持った知性体が猛烈な速度で進化を遂げていく、って根幹部分のアイデアは、古くはメスクリンやチーラ人的なそれと共通するけど、ここで高速進化をするのはAI。その気になれば人間側の都合でシャットダウンできると思われる電脳世界の知性体に対して、人間はどう接するべきなのか、ってあたりまで考察…しかけたようなお話。お話の序盤がその後の展開に、上手に繋がらない感じがするんだが、これでいいんだろうか。

エキストラ

バイオテクノロジーの発達が人類にもたらした臓器不全の治療方法、それは…を書くとネタバレになってしまうのかな。クローンとオリジナル、そのアイデンティティについて考察するようなお話。逆にイーガンらしくない、と思えてしまうくらい、SFとしてオーソドックスな作りの一作。

暗黒整数

誰がつけたか知らないが、このタイトルがすでにイーガンSFっぽさ全開で、これは来るでえと思って読みはじめたら、これ、「ルミナス」の続編なのだね。あちらも大概だったが、あちらの大概さ、その凄みをちゃんと理解し切れていないままに読む続編は、やはり肝心の凄みの本質的な部分が良く判らん。構成や何やら、って側から見た時には、小説として一番出来が良いと思うんだけど、小説のタネの部分の仕掛けやら理屈やらを完全に理解できないものだから、「むー……」と思ってしまうのだった。お話の構成がしっかりしてると「イーガンっぽくねえなあ」と思い、奇想が先に来てお話が雑だと「イーガンなのになあ」と思ってしまう。難儀な作家ではあるよな。

グローリー

全然テイストは違うんだけど、ちょっと「タフの方舟」的なものを感じた。「エキストラ」同様、イーガンにしてはオーソドックスというかコンサバというか。ただ、本書に収められた作品群に共通するイーガンらしさ、みたいなものは本作にもちゃんと盛り込まれてる。

ワンの絨毯

ここからは「ディアスポラ」と微妙に共通する世界観のもとで語られるお話が続く。「ディアスポラ」にも収められたエピソードの元ネタになる本作は、言ってみればこれがイーガンだ、と言えるようなお話といえるかな。抜け作なりに考えてみるに、イーガンSFのキモというのは、図形として認識できる概念に展開可能な要素を付け加えることで、様々な可能性が生まれるような世界を作りこんでいく、というあたりにあるのだろうか。自分でも何言ってるのか良く判らんけど。

なんて言うのかな、はっきりと形にならないんだけど、形があって、そこに何か良く判らん変化が生じることが、まずものすごく微少な世界に影響を与え、それがもっとマスな世界にも少なくない影響を与えていく、ってあたりにイーガンSFの面白さがあるのかも知れない…のかな。

プランク・ダイヴ

「グローリー」と対をなすようなお話を、さらにイーガン的に自分のフィールドに寄せて構成したようなお話。そこの所の面白さはあると思うけど、SF以前に作劇の部分で失敗していると思う。このシチュエーションをダン・シモンズに投げてみ? とんでもないことになるぜ、なんて事をちょっと思ったよ。

伝播

この短編集は結構不思議な構成になっていて、(自分にとっての)いかにもイーガン、ってのと、あ、イーガンもちゃんとSF的なマスターピースにリスペクトがあるんだ、って思えるお話が良い按配で配置されていると思うんだけど、ラストを飾るのは後者寄り。なんだろな、タイムスケールみたいなところでクラークっぽさを感じたよ。

てな感じで。お話の巧さ、ってところではイーガンという人は下手な人なんだろうと思うんだけど、そこをチャラにしちゃうパワーを持ってる人であるとも思うわけで、つくづく厄介な作家さんではあることだよ。読まずに済ませられない、と思わせる時点で、やはり只者ではないのだよね。悔しいが、必読だと思うわ。

★★★☆

本日のツッコミ(全2件) [ツッコミを入れる]
taoy@笹塚 (2011-12-07 10:00)

あー、これ私も難儀しました。「スゲースゲー」と思いながら読むんだけど何がスゲーのか自分でも判らんという…。話の肝の半分も判っていないのだけど「なんかスゲー」という印象だけは強烈に感じる作品が多かったです。苦手ではあるけれど、この作家の作品が読めて良い時代に生きていると思わせられる、なんとも難儀な作家さんですね。

rover (2011-12-08 00:53)

「難儀」と言うのがこれほどしっくり来る作家さんて言うのもそうはいないよなあ、とほんとに思いますね。徹頭徹尾良く判らんことをがんがんつるべ打ちしてきて、こっちは正直「勘弁してください」って思っちゃうんだけど、それでも新しい本が出ると「読まんといかんよなあ」と言う気にさせる、という…。<br>なんなんでしょね、この人(w。


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