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小川一水 著
カバーイラスト 高安健一郎
カバーデザイン 岩郷重力+Y.S
ハヤカワ文庫JA
ISBN978-4-15-031050-9 \760(税別)
24世紀、小惑星パラスで独立農場を営むタックの悩みは絶えない。巨大資本による進出から来る圧迫は、個人経営主たる彼には大きな圧力となり、資金の回転は日々苦しくなっていく。さらに思春期を迎え、いちいち親に反抗的な態度を取るようになった一人娘、ザリーカのふるまいも悩みのタネ。これだけでも厄介ごと満載なのに、さらにタックのもとには、地球からやってきた植物学者、アニーの面倒を見る、という予想外の役目までも押しつけられて、どうにもままならず、悶々とする事ばかりが山積みになっていく。そんなタックの思惑とは全く関係なく、人類世界にとってやがて大きな意味を持つことになるひとつの「出会い」の最初の一歩が、宇宙のどこかで起こっていた。ただしこちらの物語の始まりは、タックたちの生きている時代からは6億年前の話になるのだが…。
開拓民たちの歴史の出だしの部分というのは、いろんな意味で苦労の多い時代のお話と言うことになるんだが、そんな時代の中で苦闘する人間ドラマを丁寧に描くパートと、それとカットバックする形で語られる、全宇宙規模に拡がりを持つ、被展開体と呼ばれる得意な知性体の誕生から拡大、そして異なる被展開体との遭遇とそれがもたらす全宇宙規模でのイベント、という極めて気宇壮大な叙事詩で構成された作品。前作がやや、自分にとってはやや特異なピースに見えた作品であったのに対して、こちらはもう正々堂々の正面突破、しかも果敢に2正面作戦を展開して、どちらでもそれなりの結果を出した作品だと思える。
まず、タックたちの物語の方、こちらは未来世界における開拓農民達の苦労話、という割と地味目なストーリーを軸に、地球で起きたパンデミックである冥王斑や酸素要らずといった、これまでに登場したワードについても「忘れちゃいかんよ」と言うメッセージをちりばめながら語られる、比較的シンプルなストーリー。まあSF版「大草原の小さな家」としてちゃんと成立していると思う。
もう一方、被展開体と呼ばれる得意な知性体が誕生し、知性を得て、その知性を行使して何かを行い、それが別種の何かと衝突して…という、なんというかな、「重力の使命」や「竜の卵」で語られる物語を、逆にものすごくゆったりしたスピードで再生しつつ、その中に、われわれ的にはなんだかちょっと懐かしい、70年代初頭の日本SF臭みたいなものを混ぜ込んできたり、そんなサービスを盛り込みつつも、「天冥の標」というシリーズの中にちゃんと含まれた、それでいて大きなスケールの宇宙叙事詩が語られているあたりの構成の巧さに感心した。一冊の本にここまでいろんな要素を詰め込んで、それでもちゃんと読み物として無理なく読めるモノが出来ている、ってのは相当スゴいことなんじゃないだろうか。こちらサイドのお話が、第三作に割と濃いめに繋がったりするあたり、思わずちっちゃくガッツポーズしちゃいましたよ(w。
というわけでシリーズ、と言う部分を非常によく考えられた作品、としての出来はかなりのモノで、単体として読んでも(もちろん前のお話を知らないと話にはならないのだけれど)相当楽しめる作品になっているとは思うんだが、シリーズとして、という点で言うならたぶん、これはシリーズが完結した時点で、改めて1巻から通して読んでこそ、その価値が浸みてくる作品になりそうな気はする。構成の妙、と言う部分において、これが完結したらどういう事になるんだろう、と言うワクワク感はかなりのモノがあるのだな。自分は読んだ本は軽石庵さんに流しちゃうけど、みんなはこのシリーズ、読み終わってもうっかり手放さない方がいいと思うよ。全部揃ったところで一気読みした時に、何かちょっと違う読後感を得られるんじゃないかと思うので。
★★★★
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