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2012-03-16 [長年日記]

[Books] きょうも上天気 SF短編傑作選

きょうも上天気 : SF短編傑作選(Ballard,J.G/著 Dick,PhilipK/著 LeGuin,UrsulaK/著 ほか) 浅倉久志 訳
大森望 編
カバーイラスト 宮尾和孝
カバーデザイン 國枝達也(角川書店装丁室)
角川文庫
ISBN978-4-04-298213-5 \629(税別)

グッド・オールド・SF

2010年に惜しくも亡くなった名翻訳者、浅倉久志氏が訳した膨大な作品の中から9編をチョイスして収録。編、解説を大森望氏が担当。

あとがきによれば浅倉さんが訳したSF短編の数は600編以上だそうで、その膨大なお話の中から10作たらずをチョイスするってのは、それだけで大変な作業だろうと思うし、そこで編者の趣味とかセンスとかが見えてくるのだと思うのだが、大森パパのそれはどんなものなのか、って話はいったん置いといて、まずはそれぞれのお話の簡単な感想を。

オメラスから歩み去る人々(アーシュラ・K・ル・グィン)

一見すると地上の理想のような幸福な都市、オメラス。貧困も飢餓も、あらゆる種類の諍いも、この街には存在しない。街の人々は皆、幸福に、満ち足りた日々を送っている。ただ一人を除いては……

サンデル先生が授業で話題にしたと言うことだが、そっちは知らないし、「風の十二方位」は読んだはずだが良く憶えていないんだなあ。グィンが割と苦手、ってのもあるかも知れないけれど。お話のキモは「最大多数の最大幸福」の引き替えに設定されたものがこれである、というところを人は無条件に肯定できるものなのか、というあたりか。さらに言うならその「装置」のカラクリを知ってしまった人は、ってところで、読み手にさまざまな思考を要求するお話。

コーラルDの雲の彫刻師(J・G・バラード)

名作「ヴァーミリオン・サンズ」のシリーズに属する作品。バラードの作品は一読すると「これってSFになるのかなあ」と思えてしまうお話がとても多いんだが、これもそんな感じの一作。美しく、そしてちょっと残酷なんだが、何もこれをSFに入れなくても、と思ってしまうお話であるんだけれど、それこそがバラードの目指す「真のSF」ってヤツなんだろうな。ま、確かに浜辺の錆びた自転車よりは、なにがしかヴィヴィッドな絵は目に浮かぶわな(^^;。

ひる(ロバート・シェクリイ)

「ウルトラQ」のバルンガのエピソードの元になったと言われる作品、といえばそっちを知ってる人には何となく予想が付くか。で、まさしくその通りの作品。シンプルなアイデアがクレシェンドしていって最後に皮肉なオチが待っている、ってあたりはいかにも50年代アメリカSF、という感じ。

きょうも上天気(ジェローム・ビクスビイ)

なんだろな、「オメラス…」と対になるようなお話とも言えるんだろうか。こちらは「最大多数の最小幸福」がテーマといえるか。一文字変わっただけで大変なことになってます。モンスター・ペアレントならぬモンスター・チャイルドのお話。

ロト(ウォード・ムーア)

いえーい(w。こいつは既読続編もなかなか良いんだ。妙に好きな作品です。

時は金(マック・レナルズ)

これもいかにも50年代SFの香りが漂うシンプルな時間SF。拡げた風呂敷、すげーでかいんじゃね? と思ったら実は…、ってあたりがいかにも感を盛り上げる、っていう感じだな。

空飛ぶヴォルプラ(ワイマン・グイン)

こいつも50年代SFで括られるんだけど、ちょっと雰囲気が違ってて興味深い、なんだろうな、ブラック・ユーモア的な要素が良い感じにスパイスになっているのと、浅倉さんの訳のスタイルも若干「遊び」が多めに入っているのかも。野田昌宏 訳と言われても信じちゃったかも知れないね。

明日も明日もその明日も(カート・ヴォネガット・ジュニア)

ハリスンが書くと「人間がいっぱい」、ヴォネガットが書くと本作、って事になるのかな。実はものすごく厄介な状況なんだけど、そこに諧謔がたっぷりまぶされて、苦笑いするしかないお話に仕上がっているってあたりは正しくヴォネガット、という感じかな。「人生はすばらしい」、そりゃじいちゃんの人生はな(^^;。

時間飛行士へのささやかな贈物(フィリップ・K・ディック)

既読だし、ハヤカワSF文庫にはタイトル・テューンでもあった訳なんだけど、今ひとつ記憶に残ってない。一種の時間SFなんだけどSF的なアイデアが効いているのかと言えばそうでもなく、ディック的な何かがあるのかと言えば「あるような気もするけど…」的な。再読になるけどやっぱりオチの投げ方に今ひとつ納得できないものが残っているの。

という感じで。古き良きSFのテイストを感じられる、って意味ではいいアンソロジーだと思うけど、これまでにそこそこSF読んでる人なら既読になってしまうお話が結構多いような気もするし、浅倉さんの仕事の多岐への渡りっぷり、ってところを読者に思い知らせるような効果も少々薄味であったような気が。自分はこう言うSF大好きだから、これはこれで楽しかったけど、浅倉久志という巨大な存在の仕事はこれだったんだ、と、本書だけでは説明できないよな、と言う気も同時にした。大森さん自身が「あとがき」で挙げている、この本には収録されなかった短編たちの中に、「いやそれは収録すべきでしょう」と思えたタイトルも結構あったりしたわけで、そのあたりを補完する意味でもこの企画、続きをやって欲しいと思います。浅倉さんの仕事の一番良くて、しかも(非SF者にも)解りやすいところを集めた、というところは評価しますけど、SF知らん人間であっても唸らざるを得ない短編、ってのも大量にあると思うんで。そっちにも少し針を振って欲しかったような気はするんだよな。

★★★☆


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