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谷甲州 著
カバーデザイン 岩郷重力 + WONDER WORKZ。
ハヤカワ文庫JA
ISBN978-4-15-030907-7 \700(税別)
ISBN978-4-15-030908-4 \700(税別)
ISBN978-4-15-030909-1 \700(税別)
ISBN978-4-15-030910-7 \700(税別)
ヒマラヤの山渓に沿って渡りを行うチョウゲンボウの群を追う動物生態学者、朝倉は、そこで信じられないものを目にする。通常のチョウゲンボウたちの能力では超えられないであろう山脈を、隠れた上昇気流が流れるルートを利用して軽々と世界の尾根を越え、さらには水際だった統率で餌となる鳥たちを狩っていくチョウゲンボウたちには、これまで自分たちが見てきた鳥たちとは、明らかに違う「知性」の煌めきが感じられた。同じ頃、マレーシアの密林では、二足で直立歩行し、自在に武器を扱うオランウータンの存在も確認されていた。地球規模で、生態系に何かが起こっているというのだろうか…
なんというか、読み終わったところでさて、と評価に困ってしまう本。個人的なテンションの折れ線グラフは、1巻でどかーんと上がり、2巻でえ? とやや下がり、3巻でおいおいおいといいたくなる方向にさらにやや下がり、4巻では、ンまあそう言うあたりに落としてくるよね、的納得はあれどもグラフが上向くことはなく、みたいな。とにかくとっかかりのツカミが素晴らしく、小松左京が「日本沈没」の第二部を世に出す時に、なぜに谷甲州をパートナーに選んだのか、が、有無を言わせぬ説得力で納得できちゃう1巻、それが一転、谷甲州の得意分野のひとつでもある(『遙かなる神々の座』あたりに代表される)山岳冒険小説的なノリが前に出てくる2巻になだれ込み、3巻、4巻はこれまた谷甲州の代表作中の代表作、「航空宇宙軍史」で大爆走、で、最後に「あ、いけね」的テンションで1巻のテイストに戻ってくる、みたいな。
出だしで語られるのは、小さなファクトを次々と並べ、そこから何が予想されるんだろう、ってあたりに思いをいたし、気がついたらオレたち、「種」とかの話までしちゃってるんじゃないの? 的なところまでお話がスケールアップしていく、という、実に小松SFというか、日本SFの懐かしの王道パターンを良い感じになぞってくれてかなり嬉しくなってしまったのだけれど、その先に待っているのは、前述したような谷甲州作品のカタログ総ざらえ、みたいなノリになっちゃってて。エロがないのが残念だけど。
読んでるこちらは、まさしく日本SF第一世代の巨匠たちがしばしば描いてきた、「種」としての人類に対しての考察について、どんどん深く入り込んでくるかと思ったら、途中からそこらへの考察よりも、クライシス・スペクタクルとしての見せ場が優先されてしまう傾向が強まってくるあたりに少々違和感を感じたりして。ひたすら書斎で考え抜く小松左京と、実際にフィールドワークの現場から、何かを見いだす谷甲州、って違いがあるのかも知れないけれども。
「航空宇宙軍」シリーズでしばしば見られる、いわゆる「スペースオペラ」とは全く違う、ビーム一発撃ってもその結果が分かるまでにン時間が必要、みたいな、レーザーびよーん、爆発ドッカーン、なんてなノリとは全く違う宇宙SFの面白さに再会できた嬉しさ、もちょっとあるにはあるんだけど、1巻のインパクトと期待感が別な方向に向っていただけに、後半の展開はちょっと惜しかったかな、という気はしてしまう。前半でかなり重要な役割を持って登場したキャラが、後半少々ないがしろ気味なんじゃないかそれは、みたいな扱いがされてしまっているのも残念だし。
日本SF独自の魅力として、東洋思想的無常観付きの「種」への考察みたいなものがあったと思うわけで、で、そっち方面を本作のとっかかりで期待してしまったもので、ラストは少々腰砕けだったかも。文庫で4冊、がっつり読ませてくれる作家の力と技に敬意を表するのにやぶさかではないんですが、なにかこう、もうひと味足りない、と思う。
★★★☆
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