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デイヴィッド・ウェーバー 著/矢口悟 訳
カバーイラスト 渡邊アキラ
カバーデザイン ハヤカワ・デザイン
ハヤカワ文庫SF
ISBN978-4-15-011642-2 \980(税別)
ISBN978-4-15-011643-9 \980(税別)
宿敵、ヘイヴン人民共和区に捕らえられ処刑寸前のオナー。だが忠実にして勇敢な部下たちの犠牲的な活躍で、収監されていた巡洋戦艦は破壊され、オナーたちは辛くも脱出に成功していた。だが、彼女たちが降りたった場所、そこはヘイヴンにおいて最も警戒厳重な監獄、"カロス"を擁する惑星ハデスだった。戦時捕虜、政治犯などヘイヴンにとって最も危険な犯罪者たちを収監するが故、味方の目からも厳重に隠蔽された監獄惑星に降りたったオナーたちに形勢逆転の秘策はあるのか。同じ頃、それまでの不利な形勢を逆転すべく、ヘイヴン側はこれまでにない大攻勢を、マンティコア陣営に向けて仕掛けようとしていた…。
前作もかなり待たされた憶えがあるが、今回もまるまる一年待たされる結果になってしまった(実際の訳出には2年かかったそうですな)。単純明快な海洋冒険小説のフォーマットをなぞりながら、巻を追うにつれて書き込む部分が増えて密度が高くなっている、というのは感じるだけに、訳する側の手間も増える一方なのかも知れない。このシリーズ、マンティコア = 英国、ヘイヴン = フランス革命後のフランスがソビエトになったような世界、で、オナーたちが拠って立つところとするグレイソンが(地球の歴史ではフランス側についた)アメリカ、みたいな位置づけがされていて、そこらの"すでにあった"史実がこの作品世界ではどういう風に味付けされ直されているのか、ってのを読んでいくあたりにも面白さがあると思うんだけど、そこらの細かい描写の部分を訳していくのは、大変な作業なのかも知れないな、とは思う。
そこらの"知ってるけれど新しい"展開ぶりを楽しむ、ってのはこの手の作品の魅力のひとつだとは思うんだけど、それはそれとして"物語"性、って部分に関しては、少々ご都合主義的な部分が無くもないかな、と思わせられなくもない。かなりのボリュームの本なんだが、ここで注力されているのはお話的な展開の妙ではなく、著者が作った世界観の再確認とそのディティールへの言及である部分に、やや不満を申し立てたい気分はある。この前に読んでたのがディーヴァー作品だったのも大きかったのかも知れないけど、スジでもうひとがんばり、捻って欲しかったような気はするのだな。良い人に見えた人が、最後までみんな良い人だった、では本を読んでてあまり嬉しくないのだよね。そこの所はちょっと惜しい。
風のみを頼りに戦術を組み立てなければいけない帆船時代の海洋冒険小説とは違い、片舷斉射のやりあいだけが艦隊戦のセオリーだった所に、いきなり空母を用いた戦略が持ち込まれても違和感がない、ってあたりはSFにしかできない芸当なわけで、そこをちゃんと押さえてきてるあたりに、個人的には結構好意を持つわけで、読んでて退屈しない面白さを提供してくれる本書、どっちかと言えば好きな部類の本なのですけど。
そんなことより"訳者あとがき"を読むまで、「銀河の荒鷲 シーフォート」シリーズのデイヴィッド・ファインタックが亡くなっていたことを知らなかったショックの方が大きいわ。'90年代にいろいろ出てきたミリタリー風味のスペースオペラの中でも、ファインタックの"シーフォート"シリーズのドMっぷりはとても好きだったので、続きが読みたかったんだ。いつまで待っても「襲撃!異星からの侵入者」以降のお話が出てこないのはどうしたことだろうと思ってたら、そんな事情があったのか。とても残念です。
10年ばかり前にずいぶんいろいろ登場したミリタリー風味のスペースオペラたち。「ヴォルコシガン」も「スコーリア」も、もちろん「オナー・ハリントン」も楽しいンだが、私が一番好きなのはやっぱりこのシリーズ。哀悼の意も込めてご紹介。
★★★
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